2015年より、食品表示法により栄養成分表示が義務化されています。
食品を購入する前に、まずカロリーをチェックするという方も多いのではないでしょうか。
この記事では、食品におけるカロリーの測定方法についてわかりやすく解説しています。
はじめに
消費者庁が定める食品表示基準において、カロリーは20%前後の誤差は許容範囲とされています。
20%というと、、、例えば300kcalと表示されたカロリーが実は240kcalしか無かったり、反対に360kcalもある可能性があるということになりますね。
それだけ食品の正確なカロリーを求めるのは難しく、方法も一つに確立されてはいないのです。
現在でも、カロリーをより正確に求めるため、日々努力が続けられているまさに真っ最中だということを、まずは知っていただければと思います。
「カロリー」と「エネルギー」の言葉の違い
そもそも「カロリー」とはなんなのでしょう。
話し言葉としては、カロリー摂りすぎ、カロリーが多いといったように、”エネルギー”という言葉の言い換えとして使われることが多いかと思います。
しかし、厳密にはカロリー=エネルギーではありません。カロリーとはエネルギーの”単位”。
1気圧の下で水1グラムの温度を14.5度から15.5度まで上げるのに必要なエネルギー量=1カロリー、と定義されています。
では、ここで言う「エネルギー」とはなんなのでしょうか。
自動車が走るのにガソリンを消費するのと同じように、ヒトも活動するのにエネルギーを”消費”します。
体を動かす・頭を使うのはもちろん、寝ているときでさえも、心臓が動く・体温を保つなどの無意識的な活動をするためにエネルギーは常に”消費”され続けているのです。
ではその活動のためのエネルギーを、ヒトはどこから”摂取”しているのでしょうか。
それはもちろん、食べ物からです。
つまり栄養表示のエネルギー欄には、その食べ物を摂取したときに体内で変換されるエネルギー量が、「カロリー」という単位を用いて記載されているのです。
カロリーとジュールの違い
エネルギーにはカロリーの他にもう一つ単位があります。J(ジュール)です。
もしかすると、海外のお菓子などでエネルギーの単位が”kcal”ではなく”kJ”になっているのに気付いた方もいるかもしれません。
どちらもエネルギーの単位であることに変わりは無いので、1kcal=4.184kJとして変換可能です。
例えば、800kJと表示されている海外クッキーをkcalに変換したい場合、800kJ÷4.184=191kcalという計算になりますね。
実は、エネルギーの単位は国際的にはカロリーではなくジュールを用いることが推奨されています。
日本では慣習としていまだにカロリーが多く使われていますが、食品標準成分表などではカロリーとジュールが併記されています。
もしかするといつか国際的に足並みを揃えるため、エネルギー単位がすべてジュールになることもあるかもしれませんね。
「カロリー」はどうやって測定している?
では本題です。食品に含まれるエネルギーはどうやって測定しているのでしょうか。
先述した通り、栄養成分表示に記載されているエネルギーは、食品に含まれる”総エネルギー”ではなく、ヒトの体内でどの程度のエネルギーに換算されるか、という”利用可能なエネルギー”を表しています。
つまり基本的な考え方として以下のようになります。
体内で【利用可能なエネルギー】 = 食品の持つ【総エネルギー】 ー 糞や尿等として【排出されるエネルギー】
食品は100%消化吸収されるわけではないから、排出される分のエネルギーを差し引いてあげる必要があるのですね。
その通り。食品のエネルギーを求めるためには「消化吸収率」が大きなポイントになってきます。
エネルギー換算係数とアトウォーター法
しかしながら、消化吸収率を実験で求めるのは現実的にはかなり困難です。
なぜなら消化吸収率は成分毎に異なる上に、同じ成分であっても食品毎で異なるという、非常に複雑なものだからです。
そこで、「エネルギー換算係数」を用いて、近似的に計算で求めるという考え方が生まれました。
タンパク質・脂質・炭水化物などの栄養素が、1gあたりどれぐらいのエネルギーになるのかを表した数値。
この「エネルギー換算係数」には、1900年頃アトウォーターという化学者が求めたものがよく知られています。
アトウォーター博士は実験によって、タンパク質、脂質、炭水化物の利用可能エネルギーがそれぞれ4kcal/g、9kcal/g、4kcal/gであることを求めました。これらのエネルギー換算係数を「アトウォーター係数」と呼びます。
- タンパク質:4kcal/g
- 脂質:9kcal/g
- 炭水化物:4kcal/g
脂質は太りやすいというイメージがあるけど、確かに同じ重さで比較したときのカロリーが高いのですね。
それではアトウォーター係数を用いて、先日私が食べたスーパーのお弁当のエネルギーを実際に計算してみたいと思います。
エネルギー表示を見てみると、タンパク質・脂質・炭水化物の物質量はそれぞれ26.3g、24.6g、100.1gでした。
これにアトウォーター係数を掛け合わせるみると、
26.3g × 4kcal/g + 24.6g × 9kcal/g + 100.1g × 4kcal/g = 727kcal となりますね。
栄養表示のエネルギー欄には745kcalと書かれていたので、数%の誤差はあるもののおおよそ同じような数値になりました。
現代におけるカロリー測定方法
ではなぜ、アトウォーター係数を使って計算したにもかかわらず、若干のズレが生じたのでしょう。
それは現在、アトウォーター係数がそのまま使われているわけではないからです。
というのも、アトウォーター係数は今でも考え方の”基礎”となっている部分ではありますが、だいぶアバウトなのが現状。
なぜなら、アトウォーター係数はあくまですべての食品の平均を求めたものですが、先述した通り消化吸収率は食品によって異なるからです。
そこで、より正確な利用可能エネルギーを求めるため、さらにいくつかの考え方が生まれました。
3つほど紹介したいと思います。
「食品表示基準」で用いられている考え方
炭水化物、タンパク質、脂質だけではなく、炭水化物の中のさらに細かな成分までエネルギー換算係数を設定する、という修正アトウォーター法が用いられています。
一つ例を挙げると、炭水化物の換算係数は全て4kcal/gとするのではなく、炭水化物中の食物繊維は2kcal/gとして計算します。
「食品成分表」2015(七訂)で用いられている考え方
主要な食品では「日本食品標準成分表の改訂に関する調査」を基にしたエネルギー換算係数を、それ以外の食品にはFAO/WHO報告のエネルギー換算係数を、さらにそれ以外の食品にはアトウォーター係数を利用していました。
つまり、エネルギー換算係数を食品毎に選択することで利用可能なエネルギー値に近付けていました。
※FAO/WHO:国際連合食糧農業機関/世界保健機関
「食品成分表」2020(八訂)で用いられている考え方
2015年版ではエネルギー換算係数を食品毎に選択していましたがそれを廃止し、全食品で同じ換算係数を用いています。
これまでと大きく変わった点は、換算係数をかけるべき”栄養素”を、タンパク質→「アミノ酸組成によるタンパク質」、脂質→「脂肪酸のトリアシルグリセロール当量」、炭水化物→「利用可能炭水化物中の単糖当量」へと変更している点です。
詳細は割愛しますが、この変更により2015年版の食品成分表のエネルギー値と比較し平均で9%程度減少しました。
終わり
どの計算方法を選択するかによってエネルギー値は変わってきます。
この記事で知っておいて欲しいことは、栄養表示に書かれているエネルギー値は絶対的に正しいというわけではないということ。そして、現在でも正確な利用可能エネルギーに近付けるために、日々試行錯誤が重ねられているまさに真っ最中だということです。
ダイエットをしたい方は、細かいカロリー値に囚われるのではなく、例えば脂質が多いものはエネルギー過多になりやすい、といった本質の部分を知識として頭に入れておくことが大切ですね。